2014年

10月

04日

なぜヨットは風上に向かって進むのか?

ヨットの本質はセーリング、風の力で進むということである。

セールに追い風を受けて進む場合は何となく想像できるが、風の力だけで風上に向かって進むのが現代のヨットである。

なぜヨットは風上に向かって進むのか?

今回はその疑問を考えてみたい。

図1 「揚力」発生のメカニズム
図1 「揚力」発生のメカニズム

 

ヨットは風の力だけで風上に進むのだが、そこには自ずと限界があり、真向いの風に逆らって進むことは出来ないが、真向いの風に対して35~45°辺りの角度で進むことが可能なのである。しかし45°とはいえ、風が吹いてくる方向へ風に逆らって進むのだから、そこにヨットの魅力がある。


 《「揚力」の正体》

 

飛行機はなぜ空を飛べるのか?それは翼に「揚力」が生じ、機体が空中に浮くからである。ということはよく知られている。

ヨットもセールとキールに「揚力」が生じ、その絶妙なバランスで、風上に進むのである。

 

それではその「揚力」について少し考えてみたい。

1は「揚力」発生のメカニズムである。

 

1の流体は飛行機の翼やヨットのセールに対しては風の流れであり、ヨットのキールに対しては水の流れである。

 

1の要点は流体の一様な流れに薄い板を置いた場合、板の角度(「迎え角」という)を流れに平行な状態(「迎え角」ゼロ)から流れに垂直な状態(「迎え角」90°)まで、いろいろ変えてみると、一様であった流れに変化が生じる点である。

 

それをまとめると次のようになる。

    板の「迎え角」がある角度になると、板に「揚力」が生じる。「揚力」は流れに直角に生じる。

    板の「迎え角」が増えれば「揚力」は増して行くが、ある角度を超えると「揚力」は激減する。「迎え角」が90°になると「揚力」はゼロとなる。

    一方、一様な流れに薄い板を置くと、板に「抗力」が生じる。「抗力」は流れ方向に生じる。

 

    「抗力」は板の「迎え角」が増えれば増えるほど大きくなる。「迎え角」が90°になると「抗力」は最大となる。


 

 

《ヨットのセールによる「揚力」の発生》

 

飛行機の場合は、エンジンで機体を前進させることにより、空気の流れを作りその中に翼を置いて「揚力」を発生させて、機体は空中に浮くのである。

ヨットの場合は、セールは布地でできている。その布地のセールを図2の様に翼状に展開して風を受けたり、風を流すことにより「揚力」を得ている。

 

2はヨットのセールに発生する「揚力」と「抗力」について説明している。

図2-1 セール展開「ランニング」
図2-1 セール展開「ランニング」

   

           2-1は真後ろから風を受けている場合で、「揚力」はゼロでセールに加わる「抗力」のみでヨットは前進しているが、「抗力」は「揚力」と比べて小さいので効率の良い走り方ではない。このセール展開を「ランニング」という。

図2-2 セール展開「クローズホールド」
図2-2 セール展開「クローズホールド」



2-2は斜め前からの風をセールはある「迎え角」で受けている為、セールに「揚力」と「抗力」が発生しているが、「揚力」は風と直角方向に発生するので斜め前向きの力となっている。このセール展開を「クローズホールド」という。

図2-3 セール展開「リーチ」
図2-3 セール展開「リーチ」

   

     2-3は斜め後ろからの風をセールはある「迎え角」で受けている為、セールに揚力と抗力が発生しており、この場合揚力は前進方向に発生するので、ヨットを前進させるのに有効に働いている。このセール展開を「リーチ又はクォータリー」という。

《ヨットの「セール力」ってなに?》

 

飛行機の場合、翼に生じる「抗力」はエンジンによる推進力で打ち消している。しかし、風のみで走るヨットのセールはそれ自体が推進力を得るためにあるわけで、「抗力」もそのままセールから生じる力となる。よって、ヨットのセールからは「揚力」と「抗力」が合成された力である「セール力」が生じる。図2-2と図2-3の赤い矢印が「セール力」である。

図3-1 揚力と抗力を合成した「セール力」     図3-2 「セール力」を横力と前進力に分解
図3-1 揚力と抗力を合成した「セール力」     図3-2 「セール力」を横力と前進力に分解

3-1は図2-2と同じイラストのクローズホールドでセールから生じる「揚力」と「抗力」を合成した「セール力」(赤い矢印)が生じている。その方向は船首方向に対して約80度でかなり横向きの力である。


3-23-1の「セール力」と全く同じ図で、これを船体に対する横向きの力(横力)と前向きの力(前進力)に分解した図である。この場合横力が非常に大きく、前進力は横力の1/5程度しかないことが分かる。


よって、斜め前からの風をセールで受けた場合(クローズホールド)の「セール力」のほとんどが横力となり、ヨットを傾かせる力や横流れを生じさせる力となる。

この横方向の力(横力)を打ち消すことが出来れば、残りの1/5(前進力)の「セール力」を使ってヨットは前に進んで行けるわけだ。


よって、「セール力」だけでは今回の疑問の「なぜヨットは風上に向かって進むのか?」への正解にはならない。

図4 ヨットの船底部に固定されたキール
図4 ヨットの船底部に固定されたキール


《ヨットのキールによる「揚力」の発生》

 

そこで登場するのがヨットのキールから生じる「揚力」である。

私たちが扱うヨットは船底にバラストキールが付いている。バラストとは重りであり、このバラストのおかげで起き上がりこぼしの原理で転覆しにくくなっている。

 

もう一つ、バラストキールには重要な仕事がある。それはキールが水面下で水の流れによって「揚力」を発生させている現象である。このキールによる「揚力」こそ「なぜヨットは風上に向かって進むのか?」という謎を解くための大きな鍵となる。

 

キールは図4の様にヨットの船底の中央部に船体に並行して固定されている。その形状は翼状で、断面は左右対称になっている。

そのキールに「揚力」を発生させるには、水の流れに対して「ある角度」にしなければならないが、ヨットは真っ直ぐ進んでいるわけだから、水流はキールの真正面に当たり「揚力」は発生しないはずである。

図5 ヨットは「リーウェイ」しながら進む
図5 ヨットは「リーウェイ」しながら進む

ところが、実際には図5の様にヨットは風下に流されながら進んでいるのである。この横流れしながら前に進むことを「リーウェイ」という。「リーウェイ」しながら進むヨットのキールを考えると、水流は真正面ではなく斜め前から当り、ある「迎え角」で水流が当たるため、キールからも「揚力」が発生するのである。

 

その上、水の密度は空気の800倍もあるので、キールの面積は小さいし「迎え角」も小さいが、そこから発生する「揚力」はかなり大きなものになる。

そして、この大きな「揚力」は、ヨットを風上に押し上げる力となり、これが「セール力」の横方向の成分(横力)を打ち消す要素となる。

 

飛行機にたとえれば、セールがエンジンでキールが翼と考えてもいい。水面下の翼によって、宙に浮く代わりに船体を風上に押し上げ、風下に流されないようにしているわけだ。

図6 ヨットのキールに生ずる「揚力」と「抗力」を合成した力「キール力」(赤い矢印)が発生する
図6 ヨットのキールに生ずる「揚力」と「抗力」を合成した力「キール力」(赤い矢印)が発生する

《ヨットの「セール力」と        「キール力」の絶妙なバランス》

 

キールは図6の様に水流方向と直角に「揚力」を発生すると共に水流方向に「抗力」も発生し、これら水面下で発生する力を合成したものを「キール力」と呼んでいる。

図7 「セール力」と「キール力」が釣り合うことによってヨットは走り続ける
図7 「セール力」と「キール力」が釣り合うことによってヨットは走り続ける

クローズホールド時に生じる「セール力」(大部分は横方向の力となるが)は、図7の様に「キール力」によって打ち消される。「セール力」の前進成分が「キール力」の「抗力」より優れればヨットは加速し、「セール力」と「キール力」が釣り合うとヨットは同じ速度で走り続ける。「セール力」が足りなければ減速する。


 クローズホールド時には、キール力がいかに重要かが分かる。


これが、ヨットが風上に向かって進む理屈である。空気と水の性質の違いを巧みに利用した、絶妙なバランスの上に成り立っているのである。

        

         ※本文は下記文献を参照しました。

「THE BASIC OF YACHTING」解説:高槻和宏 発行:舵社

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