〈ようこそヨットの世界へ〉

津波の際の「沖出し」は原則「禁止」  (2012/4/21)  
 
 昨年の3.11東日本大震災の巨大津波は、日頃から海に親しむ私たちにとって生涯脳裏を離れない恐怖のトラウマと成っています。
 
 私の共同オーナーなどは、とにかく現地に駈けつけたいと自分のワゴン車の整備を始めていたが、結局体力的な要因で現地ボランティアを断念せざるを得なかった。
 
 津波が来た時、私たちの様な浮き桟橋での係留艇のヨットやプレジャーボートはどう行動すればいいのか、当時和歌山辺りでも多数の漁船が「沖出し」している光景をテレビで見掛けました。
 
 今回も「津波が到達する前に、船を沖に出して助かった」と云う話を私たちは良く聞きます。また、海上保安庁の巡視船「まつしま」が福島県相馬沖で10mの津波を乗り越える瞬間の映像なども目にしました。
 
 ですから大津波が来ると予想されたとき、「私たちも可能な限り船を沖合に出して津波の治まるのを待つべきだ」と単純に考えていましたが、どうもそう簡単ではないようです。
 
 漁船を監督する水産庁のガイドラインでは、「沖出し」は原則「禁止」としています〈「災害に強い漁業地域づくりガイドライン(2006年)」より〉。
 
 同ガイドラインによると地震が発生した時点で陸上にいる場合は勿論、港に接岸中の船の中にいても、「陸上の避難場所に避難すること」としています。
 
 これは同ガイドラインのマニュアルでも「自宅などの陸上にいる漁業者は、地震発生時に津波の来襲から漁船を守るために、漁港へ漁船を見に行く場合が多いが、津波の来襲により人命を失う恐れがあるため、ただちに指定された陸上の避難場所へ徒歩で避難する事を原則とする」とあります。
 
 ガイドラインで「沖出し」を選択肢として挙げているのは、地震発生時に港周辺や沿岸・沖合で航行中の場合のみです。その基本的な考え方は次の様です。
  1. 漁港周辺にいる船舶で、避難海域に逃げる方が早い場合、または沖合にいる船舶は、ただちに概ね水深50m以深の海域(一次避難海域)へ避難する。
  2. その間に津波情報を入手し、「大津波警報(3m以上)」が出された場合は、さらに水深の深い海域(二次避難海域)へ避難する。
  3. 避難海域においては、津波来襲時に転覆や圧流されないよう操船に留意する。
  4. 沖へ避難した船舶は、津波警報/注意報が解除されるまで岸や港へ近づかず、最低6時間は避難海域で待機する。
 すなわち、海上で安全に津波の治まるのを待つと言っても、単純ではないという事が分かります。
 
 日本海洋レジャー安全振興協会のBAN本部発行の「BAN MATE vol.35」によると、3.11を実際に体験したマリーナ関係者は次のように話しています。

    プレジャーボートの「沖出し」は30ft以上で発電機を積んでいることが条件。船外機は論外。(那珂湊マリーナ 岡田さん)
    エンジンの馬力や耐航性によって事情が変わりますが、最大で20~25ktの速度が出る船が最低条件。(銚子マリーナ 新行内さん)
    船を守ることに迷いのない漁師さんが、燃料や食料も万全の態勢で臨んで、ようやく成功するものだ。(那珂湊マリーナ 岡田さん)
    火の付いたガレキやコンテナが流れ出てくる中で、一晩中操船することを覚悟しなければならない。私だったら「沖出し」はしない。リスクが高すぎる。(くろしお 鈴木さん)
    十分な深さと広さのある安全な海域に行くまでに、水深の浅いエリアを何分走らなくてはならないのか、水が引き始める前に浅いところから脱出できるのか、の判断が難しい。(くろしお 鈴木さん)
    もしも私が海上で津波警報を聞いたとして、津波の到達予想と、港に帰りつける時間がほぼ同じだと判断出来たら、私は帰る方を選びます。(くろしお 鈴木さん)
 
 水産庁のガイドラインや実際に3.11を経験したマリーナ関係者の意見を総合すると、わが艇のような24ftのセールボートで8hpの船外機、5~6kt程度の速度では、地震発生時にたまたま海上に居て、「津波警報」を聞き、津波到着時間内には到底帰港又は直近の港に避難出来ない場合にのみ、「沖出し」し避難海域に逃げる選択肢があるという事です。そのための備えとして常に非常食と予備の燃料を船内に保存していなければなりません。